特集「結婚の理想と現実」 経 験 者 風来坊IN東京 '93/ 7/15 「乾杯」 「乾杯…再婚に」 皆はグラスを合わせた。笑顔が集まる中、ガラスの触れ合う音が盛大に響いた。 そう、奴は再婚する。奴の息子を連れて。 シャンパンを味わいながら、もう何度目かのおめでとうを私は心の中で呟いた。 ささやかな祝いの場だ。馴染みのバーを使わせてもらっている。 カウンターの隅に水槽があり熱帯魚が泳いでいた。私はそのすぐそばのスツールに腰掛けている。 奴の最初の結婚のことは今でも忘れない。 私は呼び出された店のカウンターで奴から打ち明けられたのだ。 「彼女こそ俺が求めていた女性だよ。理想の女さ」 私は黙って聞いていた。その先のセリフは分かっていた。 「結婚するよ、彼女と」 私は軽く肩をすくめた。 「おめでとう」 それから4年後、奴は離婚した。彼女が浮気したのだ。 彼女は男と出ていき、間もなく捨てられた。奴はその話を俺にしてこう言った。 「これが現実ってやつさ」 時は休むことなく流れる。 傷はいつしか癒される。 賢者は経験を生かす。 今度の理想に現実はどう応えるのか。 奴が再婚相手の彼女とスローダンスを踊り始めた。 あちこちからひやかしの声が飛ぶ。 私は微笑みながらシャンパンを飲み干した。 May the God Bless You. |