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shohin2006

桜の歌を返すU 〜愛を買収〜

2006/04/17


煙草をくゆらせ、携帯片手に、男は座っていた。ただ一人で、バーのスツールに
"チョー好きです、チョーやばいです、チョーチョーチョー。from あなたのJack"
「送信…と」
煙を吹き上げて、高校時代の同級生でもあるバーのマスター・ロナルドに告げる。
「ジャックダニエル・オン・ザ・ロック」
注文の品を持ってきたロナルドは
「ジャック、またレティにメールかい?」
イエス、とジャックは頷いた。
「まだ一度も会ったことないんだろう?」
イエス、とジャックは頷いた。
「年を誤魔化して、顔も知らない相手と!…すっかり彼女に溺れちまって…オレは、知らねえぞ」
小首を傾げて、ジャックは飲み物を一気に干した。
「思いは募る一方さ、ロナルド」
そのとき、メールの着信音。
「!…レティからだ…えっと…」
ジャックの顔色が見る見る変わった。
「ど、どうしたんだよ、ジャック」
「レティが…会いたいって…彼女の…写真も一緒に…」
「なにっ…どれ、見せてみろ…わお…」
顔を見合わせた二人の間に台詞が浮かんでいた。
"すっげえ美人"

翌日の夜。同じバーで。
「やっぱり、そうかな、ロナルド」
「当たり前だ、正直に何もかも言うんだ。」
「やっぱり、そうかな、ロナルド」
「当たり前だ、どう見たって29歳には見えねえよ、仮想年齢にも程がある」
「…」
入り口から光が漏れた。客が入ってきた。女だ。
陶磁器の白に漆黒の髪、瞳。ビンゴ、写真のレディ・レティ。

ジャックいきなりの謝罪からスタート。返される寛容の微笑み。予期せぬ好展開。
高潮する男心。弾む会話。去り際にハスキーボイスの一言。
「きっとまた会えるって信じていたわ、ジャック」
「え?またって?」
閉じたドア。謎と共に残されたジャック。カウンターにただ一人。

「ジャック…ジャック…ジャーック!!」
「ん…なんだよ、ロナルド」
「惚けた顔して、まあ。そんなにヤリたいのか?」
「バッ、ちっ、ちが…な、なに言ってんだ…そんなこと…お前…」
「やめとけ」
「へ?」
「やめとけ」
「なんでだよ、いいか、スケベ心じゃないぞ、オレは純粋に愛を感じて…」
「相手も愛を贈ってくれてるって?」
「そうさ!二人の会話を聞いてたろ?あんなに…」
「ストップ、ジャック!…いいか、よく聞け」
「ああ…聞くとも」
「オレが言いたいのはただ一言。…あいつはフレディだ」

途端に記憶が蘇える。軽音楽部。イエス、あいつはフレディ。
ちょいとエキセントリックなボーカル。高2の時に転校した男(あいつ)。

「"スケベ心"に"愛"を買収されたな、ジャック」
イエス、とジャックは頷いた。
「収賄罪で逮捕する」

Still life goes on!

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