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特集「結婚の理想と現実」

包 容


風来坊IN東京 '93/ 7/15


「俺は世間的な常識ってやつが苦手なんだ」
 そう言って彼はロックグラスに入ったバーボンを一口飲んだ。
 私はバーテンダーにお代わりを注文した後、穏やかに理由を尋ねた。
「わからない。多分、生い立ちのせいだろうと思う」
「しかし彼女は認めてくれない。そういうことか」
「そう、彼女は厳しく判断する」
「判断基準も厳しいのか」
 しばらく沈黙していた。ゆっくりと口を開いた。
「いや、基準は厳しいとはいえない」
 私は煙草に火を点け、軽い口調できいた。
「具体的にはどんなことを要求するのだ」
「…例えば、親しい人たちに暑中見舞い・年賀状を出す、
 然るべき人に中元・歳暮を送る、といったところかな」
「フム、確かに厳しくはないな」
「問題は俺と彼女が違う点について、彼女が容易には折り合ってくれないことなのだ」
 その通りだ。彼は正しく把握している。後はどう対処していくかだ。
「で、どうするつもりなのだ」
 彼はグラスの中のバーボンを見つめた。グラスを持ち上げ、回した。
 カラカラと氷どうしの触れ合う音がする。
「俺は彼女を失いたくない。努力する」
「暑中見舞いを出し、中元を送る?」
「イエス」
 二人で生活すると必ず衝突が起きる。
 その場合、我慢して一生ストレスを蓄積するか、
 徐々に相手を変えていくべく努力するか、傷の浅いうちに別離の途を選択するか。
 男と女が共に歩む道は険しい。
 彼の前途に乾杯。幸多かれ。


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